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大阪高等裁判所 昭和56年(う)951号 判決

本籍

大阪府高槻市高槻町九四番地

住居

兵庫県芦屋市平田町六番二号

プラスチック製品製造販売業

鈴木重之

昭和一六年一月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五六年五月一四日大阪地方裁判所が言渡した判決に対し、原審弁護人から控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 北側勝 出席

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人図師親徳、同鍋島友三郎連名作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、量刑不当を主張し、原判決が量定した懲役刑に不服はないが、これに併科された罰金刑の金額が著しく高額で不当であるから破棄されたい、というのである。

そこで所論にかんがみ記録を調査して検討するに、本件は二年間に合計六、七〇〇万円余の所得税を逋脱した事案であり、各年度の所得申告率は三〇パーセントに満たず、逋脱率は約八二パーセントに及んでおり、特段に酌量すべき事情も見出し難いことに徴すれば、原判決の量定した罰金額は相当であって、当審における事実取調の結果を参酌しても原判決の量刑が不当に重いとは考えられない。論旨は理由がない。

よって刑事訴訟法三九六条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中武靖夫 裁判官 吉川寛吾 裁判官 西田元彦)

○昭和五六年(う)第九五一号

控訴趣意書

被告人 鈴木重之

右の者に対する所得税法違反被告事件につきまして次のとおり控訴の趣意を弁明致します。

昭和五六年七月二四日

右主任弁護人 図師親徳

弁護人 鍋島友三郎

大阪高等裁判所 第四刑事部 御中

一、原判決は公訴事実どおりの罪となるべき事実を認定し、被告人に対し、懲役一年執行猶予三年・罰金一七〇〇万円(求刑懲役一年・罰金二五〇〇万円)の刑を言渡したのであります。

ところで右原判決の事実認定につきましては異論はございませんが、次の理由から原判決の刑の量定は著しく重きに失し不当でありますから破棄を免れないものと思料致します。

二、被告人の原公判廷における供述(記録七丁)・被告人の検察官に対する供述調書(記録七〇八丁・七一四丁)・証人蜷川礒の原公判廷における証言(記録四一丁)・戸籍謄本(記録七二〇丁)等を総合し仔細に検討致しますれば

被告人は昭和三八年関西大学経済学部を卒業し、大日本セロファン株式会社に勤務しましたが、独立経営の希望から昭和四四年同社を退職し内外化成工業所(医療用プラスチック製品販売業)を経営し今日に至ったのであります。その間、妻良江と結婚し被告人夫婦の間には長男啓介(九才)・二男隆志(五才)の二児を設けたのであります。

ところで被告人は本件の端緒となった芦屋市平田町の新築家屋に住むまでは東成区にあるアパートで家族四人でくらしていたのでありますが、子供が病弱であり担当医師から潮風の吹く海の近くで住めば子供も健康になるからとすゝめられましたので、適当な家を種々探していたところ、知人から芦屋市に敷地が安く手に入るからということで購入し新築したのであります。

若し被告人が不動産を購入し所有権の移転登記をすれば登記所より所轄税務署にその旨通知され税務署から所得源の調査が行われることは事業経営者の常識にもなっているのにこれを知らなかったことは換言すれば悪質ではなかったとも言えるのであります。

更に本件は所謂顧門税理士の今村蔵が毎月七万円の顧門料の他に昭和五一年度決算期に二〇〇万円・昭和五二年度三〇〇万円・昭和五三年度四〇〇万円という法外な金をとって脱税を指導するという加功があったため弱い人間である被告人もついこの指導により本件脱税を行ったのであります。弁護人の知る限りこのような法外な顧門料をとる税理士は殆どなく又このような法外な顧門料をとられるからつい脱税をしなければならなくなったのでありまして、この点被告人に対しても同情すべき余地があるのであります。

次に被告人は本件犯行後は昭和五四年五月から元国税局の査察官をやっておられた蜷川礒を会計責任者として迎え記帳を正確に記すとともに苟くも脱税をするという不祥事を絶無とするよう心掛けると共に領収書等には番号を付し欠番・脱番等を故意に行うことを封じているのであります。又中沢税理士に記帳・決算等の会計処理の指導を仰ぎ誤りのないよう努力しているのであります。

その上昭和五一年度・昭和五二年度・昭和五三年度の確定申告については更生決定にもとづく修正申告をなし既に昭和五一年度・昭和五二年度・昭和五三年度の本税は支払済みで昭和五一年度延滞税・同過少申告加算税(所謂重加算税)についても被告人の土地建物を担保にいれ銀行借入れによって支払をすませたので、残余の四〇〇〇万円乃至五〇〇〇万円の未納分につきましては罰金が定まり次第銀行の店長が貸付額について打合わせするということになっており、遅れ馳せながら納税の義務を果す目途がついたのであります。

現在被告人は本件につき心から反省悔悟し再びこのような犯行を繰返さない旨誓っておりますし、蜷川や顧門税理士も亦絶対脱税をさせるようなことはしないと誓っております。

三、このように改悛の情をあらわしている被告人に対し原判決は充分に酌量せず、被告人に対し罰金一七〇〇万円を言渡したことは(懲役刑は異議はありません)刑の量定著しく重きに失し不当でありますから破棄を免れないものと思料しますので本件控訴の趣意の弁明に及んだ次第であります。

以上

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